教科書に載っている口の形
中国語の教科書を見ると、多くの場合唇の絵や写真が載っています。
それらを見ると、大きく口を開けていたり、逆にものすごくすぼめていたりして、真似しようとすると「ここまでやらないとだめなの?!」と思います。昔の私は思いました。
YouTubeなどで発音を教える映像などを見ていても同じで、とても大げさに口を開けているように見えます。
「おっ!?現状批判か!?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。教科書や動画に出ている口の形は「初心者向けの投球フォーム」みたいなものだということを、読者や視聴者は知っておかないといけないということです。
大事なのは口の形ではなく音
発音は口の形ではなく、発せられた音で決まります。
投球もフォームよりも球のスピードや動きで決まるでしょう。たぶん…。(スポーツ音痴なのでこのあたりの例えに自信がありません)
発音も、音として出た結果が同じならどんなフォームで出しても構わないのです。初心者向けの投球フォームは、あくまでもその形だと出やすい(人が多い)というだけ。
省エネ発音フォーム
しかし、初心者向けのフォームで試合に臨むと、きっとどこかで頭打ちになるでしょう。その時に、自分のやりやすいフォームを編み出していく必要が出てきます。そのフォームのことを私は「省エネフォーム」と呼んでいます。
唇をあまりたくさん動かすのは疲れるので、私の省エネフォームは唇を動かしすぎないことでした。
例えば、「zi.ci.si」は「唇を横に引く」となっていますが、私は横に引きません。唇は力を入れず、だらりとくつろいでいます。
なぜ「zi.ci.si」は「唇を横に引く」と指導されるのか
「zi.ci.si」を聞くと、日本語母語話者の頭には「ず、つ、す」が浮かびます。母語のカテゴリに収めようとするのは自然なことです。
問題は、同じ「ず、つ、す」カテゴリに「zu.cu.su」も入ってきてしまうこと。この2つの音を区別するために、「唇を横に引く」という指導があるのだと思います。
では、どちらが日本語の「ず、つ、す」に似てるかというと、私は「zi.ci.si」だと思います。この2つの音を違う音に、同じ引き出し(カテゴリ)に入れないためには、「zu.cu.su」を少し遠くの引き出しに入れるのが得策だと考えます。
母音「u(wu)」を遠くの引き出しに入れるための動画はこちらです。
できることなら口内を見せたい
中国語を話している時の口の形を外から見ただけだと、普通は唇の動きくらいしか読み取れません。しかし、発音には舌の動きが大きく関わっています。口の周りを今すぐ透明にして、口内が一目瞭然になる機能がつけばいいのに…。と思っている人間は、私を含む語学講師に多くいると思います。
あと歯科医も。
原田夏季(はらだなつき)
東京生まれ。高校から中国語を学び、大連へ留学。現在は企業・学校で中国語を教える他、舞台通訳も手掛けている。SNSでは「夏季老師」として知られ、Xでは中国語学習のヒントや文法まとめメモを更新中。Youtubeでは入門者向けレッスン動画ほか、李軼輪先生や李姉妹とともに「一分中文」を配信している。著書に『ゼロからはじめる中国語レッスン』(アルク)『超初級から話せる 中国語声出しレッスン』(アルク)『夏季老師の中国語の口を手に入れる 中国語教室』(三修社)などがある。
コメント