私のリスニング力、乱高下で風邪ひきそう。
好きな中国アニメを観てる時、「こんな早口を聞き取れる私はもはやネイティブなのでは」と思うことすらあるのに、先日のNHKワールドニュースで出てきた「kǒu tǔ yīngtáo hé」がわからなくて確認したら「口吐樱桃核」で、さくらんぼの種飛ばし選手権だった。クソッ
「知らない分野は聞き取れない」という当たり前な事実
その分野の知識があるかないかで、聞き取り力は段違い。当たり前なことかもしれませんが、こと外国語学習となると、この大前提が置き去りになることがあります。
日本語でもわからないことは、中国語で聞いてもわからない。推測すら成り立たず、宇宙に一人取り残されたような気分になって、立ち尽くす…。
そんな経験を、舞台通訳をしていた時に何度もしました。あまりに聞き取れなくて、不甲斐なくてトイレに隠れて泣いたことが何度もある。
舞台通訳のお仕事は、例えば「中国の照明スタッフ」と「日本の照明スタッフ」の間に立って通訳するもので、2人とも照明のプロなのに、私だけド素人なのです。照明は専門用語も知識も多く、事前に調べられるものは覚えていく努力はしますが、準備が全然役に立たないことの方がずっと多い仕事でした。
そんな中でも照明スタッフの2人はプロなので、なんか通じてるんですよ。私のめちゃくちゃな通訳でも。前提知識があるから、「これを2にしたほうがいいんじゃないですか」くらいのことしか言えなくても、2人は「なるほど!よかった〜!解決!」みたいな感じなのに、私一人だけ「???」な状態。暇な時に「さっきのアレって結局どういうことなんですか?」と聞けることもあるけど、プロの知識をタダで教えてもらうのも気が引けるので、かなり打ち解けてからじゃないとできませんでした。
耳以外から得る情報
ところで、「マガーク効果」という言葉を知っていますか?
まずは何も調べずにこちらの動画をご覧ください!やってみて!面白いから!
これがマガーク効果です。
耳って意外と適当でしょう???日本語ですらこうですから、中国語なんてあなた!音だけを頼りに聞き分けなんてそうそうできないんですよ!
カテゴリー知覚
「それでも音だけで聞き分けできるようになりたいの!」という人もいるでしょう。
聞き分けが難しい音の組み合わせは、中国語にもたくさんあります。ziとzu、jiとqi、anとang、第2声と第3声など。しかも検定試験のリスニングでこれらの聞き分けが出たりします。
では、そもそも私たちはどうやって2つの音を聞き分けているのか?その答えの鍵となる1つのキーワードが、「カテゴリー知覚」です。
こんな実験をしてみましょう。「ba」から徐々に「da」へ変わっていく音声を10個作ります。(フリーソフトで作れます。)それを聞いてもらって、「どっちだと思う?」や、「この音と同じ音はどっち?」などと質問をします。

このように、厳密には全部違う音なのに、「1~5までがba!」「6~10までがda!」のようにひとくくりに判断する現象をカテゴリー知覚と言います。「ba」の引き出しと「da」の引き出しがちゃんと分かれていて、2つの音をちゃんと整理している状態ですね。(超わかりやすい参考元:https://splab.net/apd/ja/u100/ カテゴリー知覚の実験も体験できます。)
では、このカテゴリー知覚はどう獲得されていくのか?ここで私の息子の例を見てみましょう。

これは息子が4歳の時に、YouTubeに残っていた検索履歴です。ひらがなを習い始めて間もない息子が一生懸命入力した、涙ぐましい努力の跡です。
さて、彼は何の動画を観たかったのでしょうか?声に出して読むと分かるかもしれません。アニメです!
答え↓
↓
↓
答えは「ダイの大冒険」でした!確かに、「だ」と「ら」は交互に発音してみると本当によく似ています。「ぼうけん」の「ぼう」は実際には「ぼー」と発音していますから、これは大正解。文字というのは発音とイコールではないんです。
音声入力機能を知ってからはそちらに頼り切りになったので、この写真は息子の日本語習得過程を切り取った、大切な一枚となりました。
この「だ」と「ら」の聞き間違い例は、カテゴリー知覚がまだ未熟だからこそ起きたことでもあると考えられます。私達も、きっとたくさん間違えて、そのたび修正してきたのだと。それを繰り返していくことで、聞き分けが可能になっていきます。
リスニング力とは
つらつらと書き連ねましたが、何が言いたいかというと「一口にリスニング力といっても、耳の力だけではない」ということ。マガーク効果のような「目からの情報」にも頼っていますし、舞台通訳の例で見たように、その分野自体の知識にも頼っています。更には、語彙力・表現力・文法知識にも、ものすごく頼っています。
先程の息子の例だと、一度でも「ダイの大冒険」という字面を見ていたら結果は違っていたかもしれません。うるさい居酒屋でも相手の話が聞き取れるのは、その人の周辺情報や、日本語の表現力や語彙力によって次に来る言葉の推測が成り立つからです。(あまりよく知らない仕事関係の人と賑やかな店に行った時、本気で聞き取れなくて何度も何度も聞き返しまくって嫌な空気になったことがあるので、賑やかな店は好きじゃありません)
リスニング力をあげるためには、総合的な中国語力も大きく関わっています。冒頭、私が聞き取れなかった「口吐樱桃核」だって、その前のニュースが日米関税のニュースじゃなければ聞き取れてたはず。次にさくらんぼの種飛ばしが来ると思わなかったの。温度差で。

原田夏季(はらだなつき)
東京生まれ。高校から中国語を学び、大連へ留学。現在は企業・学校で中国語を教える他、舞台通訳も手掛けている。SNSでは「夏季老師」として知られ、Xでは中国語学習のヒントや文法まとめメモを更新中。Youtubeでは入門者向けレッスン動画ほか、李軼輪先生や李姉妹とともに「一分中文」を配信している。著書に『ゼロからはじめる中国語レッスン』(アルク)『超初級から話せる 中国語声出しレッスン』(アルク)『夏季老師の中国語の口を手に入れる 中国語教室』(三修社)などがある。
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